これまでも特定技能「介護」で働くことは可能でしたが、特定技能外国人が訪問介護に従事することは認められていませんでした。
厚生労働省の統計によると、令和5年度における訪問介護員の有効求人倍率は14.14倍と非常に高く、人材確保の難しさが顕著となっています。在宅介護サービスを安定的に提供していくことは、多くの事業者にとって大きな課題です。
深刻な人手不足が続く訪問介護の現場を背景に、2025年4月に大きな制度改正が行われました。これまで訪問介護では認められていなかった特定技能外国人や技能実習生の従事が解禁されたのです。介護業界の人材確保のあり方は大きな転換点を迎えています。
外国人材の受け入れ拡大は、訪問介護分野における人手不足解消に向けた重要な選択肢として期待されています。
ここでは、今回の制度改正の背景を踏まえ、訪問介護における特定技能外国人の受け入れ要件や、事業所が遵守すべきルール、導入のメリットや注意点について、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
特定技能外国人が訪問介護に従事するためには、以下の要件を満たす必要があります。
1 介護職員初任者研修課程等の修了
2 介護事業所等での1年以上の実務経験
特定技能外国人が訪問介護に従事するためには、介護職員初任者研修課程などを修了していることに加え、介護事業所などでの実務経験が必要です。この要件は、利用者の自宅という密室での1対1の介護サービスを安全かつ適切に提供するために設けられています。
※例外:実務経験1年未満でも従事可能なケース
事業所の判断により、実務経験が1年未満の外国人材であっても、以下の両方の条件を満たす場合には訪問介護に従事することができます。
1 N2相当など、外国人材の日本語能力・介護スキルが十分である
2 より手厚いOJT(利用者ごとの同行訪問等)を実施する体制の整備
なお、障害福祉サービスの訪問系サービスで外国人が従事可能となる要件については、修了した研修課程などによって異なります。
まず、介護保険における訪問サービスについてです。
以下のサービスで特定技能外国人・技能実習生の従事が可能になりました。
【介護保険における訪問系サービス】
・訪問介護
・訪問入浴介護
・夜間対応型訪問介護
・介護予防訪問入浴介護
・総合事業の訪問型サービス(第1号訪問事業)
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
【障害福祉サービスにおける訪問系サービス】
・居宅介護
・重度訪問介護、
・同行援護
・行動援護
・重度障害者等包括支援
・居宅訪問型児童発達支援
・移動支援事業(地域生活支援事業)
次に、介護施設についてです。
受入事業所は「介護分野特定技能協議会」への入会が必須です。
以下の訪問介護施設にて雇用されている場合は、今まで特定技能制度の対象外であった「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」や「住宅型有料老人ホーム」へ訪問することが可能になります。
児童福祉法関係の施設・事業
・居宅訪問型児童発達支援(居宅訪問型児童発達支援の「訪問支援員」の要件を満たしていること)
障害者総合支援法関係の施設・事業
・居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護(各サービスの従事に必要な研修課程修了などの要件を満たしていること)
・重度障害者等包括支援(各サービスの従事に必要となる研修課程修了などの要件を満たしていること)
・移動支援事業(一定の研修課程(※)を満たしていること)
※地域でどれくらいサービスが必要か、また利用する人がきちんとしたケアを受けられるかどう かという点を考慮して、市町村が決めます。
・訪問入浴サービス(複数人でのサービス提供を行うことを要件に、外国人の従事が可能となります)
老人福祉法・介護保険法関係の施設・事業
・指定訪問入浴介護
・指定介護予防訪問入浴介護
・第1号訪問事業
・指定訪問介護
・指定夜間対応型訪問介護
・指定定期巡回
・随時対応型訪問介護看護
メリット1:深刻な人材不足の解消
訪問介護業界の最大の課題である人材不足の解決に直結します。特定技能外国人の受け入れにより、これまで人材確保の困難さから断らざるを得なかった新規利用者の受け入れが可能となります。
メリット2:若い人材の確保
特定技能外国人の約70%は18〜29歳の若手です。訪問介護員の高齢化(平均年齢54.4歳)が進む中、若くて体力のある人材を確保できることは大きなメリットです。入浴介助や移乗介助など、体力を必要とする業務において即戦力として期待できます。
メリット3:長期的な雇用が可能
特定技能1号の在留期間は最大5年間です。さらに、介護福祉士の国家資格を取得すれば在留資格「介護」へ移行でき、在留期間の制限なく長期的に働いてもらうことが可能になります。
メリット4:即戦力としての活用
訪問介護に従事する特定技能外国人は、原則1年以上の介護施設での実務経験を有しています。そのため、基本的な介護技術はすでに習得しており、訪問介護特有の知識を研修で補えば即戦力として活躍できます。
メリット5:政府の在宅介護推進の流れに合致
政府は在宅介護の強化を推進しています。訪問介護分野で外国人材を活用できるようになったことで、この政策の流れにも沿った事業運営が可能になります。
メリット6:サービス付き高齢者向け住宅等での活用
これまで外国人介護人材を採用できなかった訪問介護事業所、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、特定施設ではない住宅型有料老人ホームなどでも、新たに人材を確保できるようになりました。
日本語能力・コミュニケーションの課題
訪問介護では利用者やその家族と1対1でコミュニケーションを取る必要があります。特定技能外国人は日本語能力試験N4以上に合格していますが、方言や高齢者特有の言い回し、専門用語への対応には追加の教育が必要な場合があります。
★対策★
・継続的な日本語研修の実施
・翻訳アプリやICTツールの活用
・定期的なフォローアップ面談
文化・価値観の違い
日本の生活様式や介護の慣習に不慣れな場合、利用者との間でトラブルが生じる可能性があります。食事の作り方、掃除の方法、プライバシーへの配慮など、日本独自の文化的背景を理解していないと、利用者の不満につながることがあります。
★対策★
・日本の生活様式に関する研修の実施
・同行訪問による丁寧なOJT
・利用者・家族への事前説明と理解促進
受け入れ手続きの煩雑さ
訪問介護で特定技能外国人を受け入れるには、通常の特定技能受け入れに加えて、追加の要件確認・書類提出が必要です。
★必要な手続き
・介護分野特定技能協議会への入会
・訪問系サービスの要件に係る報告書の提出
・適合確認書の取得(国際厚生事業団への申請)
・キャリアアップ計画書の作成・提出
・利用者・家族への事前説明と同意取得
ハラスメント対策の必要性
外国人材が利用者宅で1人で業務を行うため、セクシュアルハラスメントやカスタマーハラスメントのリスクがあります。事業所として相談窓口の設置や対応マニュアルの整備が必須となります。
ご心配ごとは専門家にご相談ください!
上記のようなデメリットや注意点は、適切な準備と専門家のサポートがあれば十分に対応可能です。特定技能の訪問介護は新しい制度であり、手続きも複雑です。
サポートが丁寧でリーズナブルな登録支援機関や、特定技能制度に詳しい行政書士事務所に相談したり、手続きをお願いするのが安心です。
制度に精通した専門家であれば、書類作成から申請、受け入れ後のフォローまで一貫してサポートしてもらえるため、事業所様の負担を大幅に軽減できます。
特定技能外国人が訪問介護サービスを提供する場合、事業所は事前に利用者や家族へ書面を交付して説明し、同意を得なければなりません。
【説明すべき内容】
1 外国人材の資格・経験・能力に関する情報
2 実施予定の研修・指導体制について
3 同行訪問の期間や方法
4 緊急時の対応方法と連絡体制
書面の内容について理解してもらえたら、交付した書面に利用者または家族の署名をもらいます。
今回の改正によって、特定技能「介護」の活躍の場は広がり、訪問系サービスでも外国人人材を受け入れやすい環境が整いつつあります。人手不足の解消だけでなく、利用者にとってもサービスの継続性が高まるなど、多くのメリットが期待できます。
しかしその一方で、特定技能制度は書類の種類が多く、要件も複雑で、少しの認識違いが「不適切な運用」につながってしまうことも珍しくありません。制度改正も頻繁に行われるため、
「このままで本当に大丈夫かな」
と不安を抱える事業者さまも少なくないはずです。
そんなときこそ、特定技能制度に精通した行政書士におまかせください。最新の法令を踏まえ、受入れから日々の運用まで、安心して制度をご利用いただけるよう丁寧にサポートいたします。
※本記事は令和7年9月30日施行「特定技能外国人受入れに関する運用要領」改正版および同年4月施行分の改正内容に基づいて作成しています。
制度の詳細については、以下の公式ページをご確認ください。